歩き続けてきた一年が終わろうとしています。
大きな壁にぶつかったこともあるし
未だに解けない問題が多くあります。
その度に心細くなり孤独感を感じます。
これでベテラン部類か?
自問自答しますが、答えがでないときがあります。
その反面ハサミとクシで出来る仕事には誇りがあり
名誉にも感じます。楽しい仕事ができることが全てです。
今年はそんな目指す環境の、土台を作ることが少し出来ました。
ただ、時代には流れがあるから一瞬にして新しいデザインなど
出来るわけでなく造形物と同じく、土台があり屋根があり柱や壁
があり、そのための設計図を時間かけて用意するのが大切だと思います。
ヘアカットは引き算。
ワンレングス、グラデーション、レイヤーを用いて
「長さの構成」でカタチができるのです。
来年はそれを整理整頓しようと思います。
今の時代はカットのためのカットじゃなくスタイリングの
ためのカットが主流になりました。
ニュアンスでデザインを表現できるという簡単なことで、
しつこくモノを作っていく姿勢がインスタントになってしまったこと、
これはぼくにとって寂しいことです。
ある日ぼくは、ミヒャエル・エンデの「モモ」の童話と出会いました。
床屋のフージーさんというおじさんが出てきます。
彼は、とても愉快で優しく
床屋に集まる人たちは、みな笑顔。
みな、お店を出る時にはとても温かい気持ちになるのです。
そんな平和なある日の出来事です・・
「時間泥棒」が来て、フージーさんは“時間”に束縛されてしまいます。
これまでの温かい時間は、全て消えてしまいました。
フージーさんは、休みなく必死に働くようになり
いつのまにか彼のお店からは笑顔が消えてしまいました。
安く、早く、そして機械のように次々と
お客さんの髪型を整えていくことは
フージーさんの人生ではなかったのに・・・
童話の中では、不思議な少女「モモ」が、彼を救います。
フージーさんは、本当に「大切な時間」を取り戻し
元の温かい人たちがお店に楽しみや憩いを求めて
来てくれるようになったのです。
今、自分たちを取り巻く「時間」や「環境」の流れ
それは、あまりにも早く安易で、希薄になっているように思います。
なぜ、そんなに急ぐ?
素早く簡単なことが、とても価値あることとされ、
丁寧で複雑なことは、遠慮されているような
そんな寂しさを感じるのです。
さて・・・
今は人生の温かい下り坂を歩いているぼくですが、
与えられた時間を大切に自分らしく
美容人生の生涯、笑顔をもって楽しんで行こうと思います。
一年間どうもありがとうございました
村中ひろし