Muranaka Diary2000-2017

【9周年SP】今日までそして明日から

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第十章 【Good luck】

いま思えば短いようで、そして長い9年間だったが
多くのお客様の支持を受けて感謝の気持ちで一杯だ。
時折、美容師になってからの過去を振り返るが
決して順風満帆な人生でもなかったと思う。
ぼくにはそれが丁度良いかも知れない。
いつも逆風の中で生きてきたから慣れてしまったのだろう。
そしてその度に自分は打たれ強くなったかと思う。
むしろ追い風に乗るのも怖い気がする。

その一方で常に「人さま」に助けられて育ってきた自分、
スタッフやお客様にしてもぼくが出来ないことをたくさん手助けしてくれて、
人って有り難いものだ。
だからこそこの先の人生、何処かで恩返しをしていきたいと思う。
恩返しはいつも店の中でお気に入りのスタイルを作ることだったが
これからは違う・・・・。

一年ほど前、世界規模にもなる金融危機、
景気後退は中小企業の崩壊や多くの人々の生活を狂わせてしまった。
美容室に与える打撃も想像以上に大きい。
一般的な消費感覚は、衣食住の全てが下がるいっぽうである。
同じ消費者として、決してわからないわけではない。

人が生きていくために、時代は辛抱しなければならないという答えを出してきたのだ。

しかし不思議なことに、このご時世に美容室が増えているという。
数字や経営音痴なぼくにはわからない現象である。
ぼく感覚から言うと勝ち組、負け組はハッキリせず、不透明な状態なのだ。

こうなると時代の背景を味方にして安く提供できるサロンが強くなるものだ。
ここまで深く考えることも初めての経験だが、どうしたら良いのかさっぱりわからない。

ただわかることは、
今年になってから極端な変動や空き時間が有り過ぎること、
新しいお客様と出会うチャンスが少なくなった事、
デジタル化や情報化が進みすぎて、今までと同じやり方や、
方法ではダメだということ、それだけだ。
品物であれば安売り合戦に参加してもいいかも知れない。
しかし人は「モノ」ではない!

値下げ合戦に巻き込まれることはリスクを背負うことでもある。
消費感覚が元の位置に戻った場合には通常の状態には戻れなくなる。
原価割れが生じてしまう危険性も捨てきれない。

しかし、物事いつも逆転の発想があるものだ。
今こそサロン構えの価値を出す絶好の
チャンスだと考えるべきだと思う。
自分のサロン方針を崩さず努力することが大事ではないかと思う。何故なら、
料金より質を求めているお客様が必ずいるということを忘れてはならないからだ。

どちらを選ぶにしてもリスクがあるのなら
価値ある方を選ぶべきだ。

自分の信念を貫き通して失敗しても後悔なんてしない筈だ。
失敗を恐れず、前向きに努力してほしい。
今だから技術の勉強に励む時、そう考えると明るい方向性が見えて、
最良な舵取りができるようになるかと思う。

若い経営者や、若い技術者は胸を張ってがんばってもらいたい。
ぼくはもう現役として若くないし、身体が壊れてきているから迷惑はかけられない。
それに限界がある。
サロンで12時間もの立ち仕事はなかなか容易ではない。
そろそろ自分を許してあげたいとも思う。
この9年間、波乱万丈であっても楽しかったし、後悔は全くしてない。

辛かった時ほど記憶に残るが、今となれば美しくも思える。
父と約束の汗水も、十分に流して働かせてもらった。
人には見せぬ涙もたくさん拭ってきた。

今、気になるのは明日の天気と、明日来て下さるお客様、
そして、父が残した畑の野菜や植物たちに実がなっているかどうか・・・
明日へと繋がっていく大切な実が育ってくれるかは、気がかりなことだ。

人は誰にでも昨日よりも今日、今日よりも、明日がある。

今日までそして明日から・・・

来年10周年を迎えるぼくは、新たな旅立ちの準備を始めようとしている。

Good luck!

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