拝啓 村中ひろし さま
もう何年前になるかな・・・
何気なく見たテレビに映っていた、一人の美容師さんと、
小さな赤い屋根の美容室にちょっと美形のネコ。
自宅からすぐにあるその場所を、
それまでぼくは知らなかった。
気がつくとRIBBONSは、ぼくの大好きな場所になっていた。
穏かでゆったりとした時間は、
ぼくの気持ちを、柔らかくほどいてくれる。
そして、いつもぼくが期待する以上のぼくに仕上げてくれる。
村中さんが、さりげなくスパイスを効かせて整えてくれた髪は、
ひそやかなぼくの自慢。
誰が見ても素敵なヘアスタイルなんだ。
そういうRIBBONSはぼくの近くにありすぎて
本当に大切な場所だということを
ほんの少しの間だけれど、忘れていた。
毎日の生活に追われて
ぼくは考えずに走り続けるようになってしまった。
周りの人や景色が見えなくなって
ぼくの心からRIBBONSも見えなくなった。
髪を整えることも、楽しくなくなった。
たまにRIBBONSを思い出すけれど
ぼくには関係の無い場所だと自分に言い聞かせていた。
この秋、久しぶりに行ったRIBBONSは
以前と変わらず気さくにぼくを迎えてくれた。
「やっ、久しぶり!」
そしてもう一度、RIBBONSはぼくの大切な場所になった。
村中さんなら、今のぼくの髪をどうカットしてくれるのかと
いつも、期待してお店に入る。
明日からの自分を想像して、鏡の前でワクワクしている。
あのね、村中さん・・・・
「頑張って接客」しなくてもいいよ。
村中さんに綺麗にしてもらった人は
お店を出る時には、みな笑顔になっていることに気づいてる?
だからカットしている時には
無理して「接客」しなくてもいいよ。
鏡に映るハサミとクシ
真剣な表情でカットする村中さんは、
何も語らずとも、とっても雄弁だから。
村中さんのハサミの音・・・
落ち込んでいる時は「頑張れよ」
ウキウキしている時は「よかったな」
何かを決断しようとしている時は「それでいいんだよ」
そうぼくには聞こえるから。
でも、ハサミの音がちょっと悲しく聞こえたことがあった。
その時は知らなかったけれど、
村中さんのお父さんが逝ったと聞いたよ。
心の中で涙を流しながら、ハサミとクシを持ち
何があっても美容師であり続けようとする村中さんを
ぼくはいつまでも応援してるよ。
だから・・・
いつまでも夢を追いかけて頑張ってくださいね、村中さん!
本当にありがとう。。。。